土浦市40歳誕生日歯科健診報告     戻る
社団法人土浦市歯科医師会

鈴木明夫

梶塚達夫

指導:日本大学松戸歯学部  

衛生学講座 教授 小林清吾

1 緒言

 40歳は全身の健康管理にとって人生の節目になる時期であり,昭和57年より「老人保健法」のもと,健康教育・健康相談・健康診査を行うことが進められている。口腔の健康管理についても,これら保健事業の内容に組み込まれている。当市では満40.50.60歳の市民を対象に行われる誕生日健診の一環として,40歳誕生日歯科健診がある。本事業は平成元年よりはじめられ今年で10年目を迎えた。

 3年を経過したところで一度まとめを行ったが、最近の4年間と比較し問題提起をしてみたい。

2 対象

 土浦市在住の満40歳になる者を対象とした。

3 方法

土浦市より該当者に受診表を発送し本事業に協力する診療所において健診する方法をとった。

 健診は、あらかじめ定められた健診表にそって、(1)@粘膜の状況(なし、経過観察、要治療、要検査) (1)A顎関節の状況(なし、経過観察、要検査) (2)歯の状況 (3) 歯周疾患の状況(CPITN) (4)その他の状況(口腔清掃指導の必要性、歯石除去の必要性不定愁訴、その他気になること)を診査した。また、診査する歯科医によるばらつきをなくすため、本事業の始まる前に講習会を開き診査方法等の周知徹底を図った。

4 結果及び考察

 平成元年から3年まで、及び平成6年から9年までを表示する。また、考察のために、合わせて歯科疾患実態調査(平成5年度)およびWHO Global Oral Data BankよりCPITNのデータを併記する。

 本事業をはじめた当初から比較すると最近の4年間は受診率の向上が見られる。(表1‐1、表1‐2)しかしながら最近でも7%から8%で推移し、受診者は特別な関心や事情もあるものと考えられる。全体の受診率(有効データが得られたH1−3,H6−9の合計)6.1%は,公的事業のねらいからすると低いと考えられる。なお,平成10年度
から開始された別途事業「成人歯科健診」の参加者の内,40-44歳の者,15名が含まれている。平成10年度はまだ事業途中であるが,これらを加算してもなお受診率は低い。

このデータを持って土浦市の40才の口腔内を分析することは危険であろう。しかしながら事業当初との比較、および全体的な傾向は判断できると思われる。

   表1‐1  各年度ごとの受診者数

  男性 女性 総数
平成元年
(対象者)
29 2.4% 56 5.3% 85 3.8%
1,186 1,065 2,251
2年 35 3.1% 65 5.6% 100 4.4%
1,120 1,155 2,275
3年 28 2.8% 61 6.1% 89 4.5%
997 995 1,992
92 2.8% 182 5.7% 274 4.2%
3,303 3,215 6,518

表1-2


男性 女性 総数
平成6年 62 6.5% 81 9.2% 143 7.8%
957 877 1,834
7年 49 5.3% 80 8.8% 129 7.0%
920 914 1,834
8年 64 7.6% 82 10.2% 146 8.9%
847 802 1,649
9年 48 5.6% 89 11.2% 137 8.3%
855 793 1,648
223 6.2% 332 9.8% 555 8.0%
3,579 3,386 6,965

(1)口腔粘膜の状況について(表2‐1、表2‐2)

  平成6−9年度で記載もれがなくなった。有所見者の割合は,検査年度間で有意な差なしと思われる。

表2‐1 粘膜疾患の判定区分


異常なし 経過観察 要治療 要検査 記載なし 総数
平成元年 73 97.3% 1 1.3% 1 1.3% 0 10 11.8% 85
2年 87 97.8% 2 2.2% 0 0.0% 0 11 11.0% 100
3年 78 97.5% 2 2.5% 0 0.0% 0 9 10.1% 89
238 97.5% 5 2.0% 1 0.4% 0 30 10.9% 274
81 96.4% 3 3.6% 0 0.0% 0 8 8.7% 92
157 98.1% 2 1.3% 1 0.6% 0 22 12.1% 182

表2-2


異常なし 経過観察 要治療 要検査 記載なし 総数
平成6年 140 97.9% 1 0.7% 2 1.4% 0 0 143
7年 126 97.7% 2 1.6% 1 0.8% 0 0 129
8年 146 100.0% 0 0.0% 0 0.0% 0 0 146
9年 137 100.0% 0 0.0% 0 .0% 0 0 137
549 98.9% 3 0.5% 3 0.5% 0 0 555
220 98.7% 2 0.9% 1 0.4% 0 0 223
329 99.1% 1 0.3% 2 0.6% 0 0 332

(2)顎関節の状況について(表3‐1、表3‐2)

 平成6−9年度で記載もれがなくなった。経過観察有所見者の割合は,近年少し増えている傾向にある。

表3‐1 顎関節の異常の判定区分


異常なし 経過観察 要検査 記載なし 総数
平成元年 72 97.3% 2 2.7% 0 0.0% 11 12.9% 85
2年 83 94.3% 5 5.7% 0 0.0% 12 12.0% 100
3年 78 97.5% 2 2.5% 0 0.0% 9 10.1% 89
233 96.3% 9 3.7% 0 0.0% 32 11.7% 274
79 95.2% 4 4.8% 0 0.0% 9 9.8% 92
154 96.9% 5 3.1% 0 0.0% 23 12.6% 182

表3‐2


異常なし 経過観察 要検査 記載なし 総数
平成6年 134 93.7% 9 6.3% 0 0.0% 0 0.0% 143
7年 116 89.9% 13 10.1% 0 0.0% 0 0.0% 129
8年 137 93.8% 8 5.5% 1 0.7% 0 0.0% 146
9年 123 89.8% 14 10.2% 0 0.0% 0 0.0% 137
510 91.9% 44 7.9% 1 0.2% 0 0.0% 555
200 89.7% 23 10.3% 0 0.0% 0 0.0% 223
310 93.4% 21 6.3% 1 0.3% 0 0.0% 332

(3)  歯の状況について(表4‐1、表4‐2)

診査では健全歯、処置歯、未処置歯(C1〜C4)、欠損歯、補綴歯をチェックしたがここでは歯科疾患実態調査との比較のため、処置歯、未処置歯とも1人平均歯数で表す。なお,平成1−3年度のデータでは一人平均歯数が算出できなかったので,平成6−9年度を有効データとする。

最近の4年間では平成5年度の歯科疾患実態調査と比較して処置歯(F)が多いことがわかる。これは、受診者が特異な集団である可能性が高いことが原因と考えられる。

表4‐1


DMFT D+F 1人平均F
6年 15.88 14.01 11.23
7年 16.39 14.31 11.14
8年 14.46 12.66 10.73
9年 16.99 14.88 12.99

平均DMFT  歯科疾患実態調査(平成5年)

表4‐2


DMFT D+F
20歳 9.51 9.41 0.10
40歳 14.72 12.83 1.90
50歳 15.37 10.50 4.87
60歳 20.30 9.86 10.45
70歳 23.71 7.10 16.61
80歳 27.13 2.06 24.53

(4)歯周疾患について(表5‐1、表5‐2、表5‐3、表5‐4、グラフ1)

 本事業では歯肉の状態の診断にCPITN法を用いている。歯科疾患実態調査における歯周疾患に関するデータは表5‐4にあるが、本事業との比較はできない。WHOのデータ(表5-3)と比較するとスコア1の比率が多くなるが
これも受診者が特異な集団であることが考えられる。 

なお、グラフ1は平成6年から9年のデータとWHOのデータの平均を表したものである。

歯周疾患の状況

表5‐1    各年度毎及び男女別のCPITN


0 1 2 3 4 記載なし 総数
平成元年 9 10.6% 16 18.8% 28 32.9% 26 30.6% 6 7.1% 0 0.0% 85
2年 14 14.1% 13 13.1% 32 32.3% 35 35.4% 5 5.1% 1 1.0% 100
3年 14 15.7% 12 13.5% 26 29.2% 30 33.7% 7 7.9% 0 0.0% 89
37 13.6% 41 15.0% 86 31.5% 91 33.3% 18 6.6% 1 0.4% 274
10 2.9% 9 2.6% 24 7.0% 41 12.0% 7 2.1% 1 0.3% 342
27 4.7% 32 5.6% 62 10.8% 50 8.7% 11 1.9% 0 0.0% 573


0 1 2 3 4 記載なし 総数
6年 5 3.5% 17 12.0% 53 37.3% 48 33.8% 19 13.4% 1 0.7% 143
7年 10 7.8% 13 10.2% 46 35.9% 36 28.1% 23 18.0% 1 0.8% 129
8年 11 7.5% 25 17.1% 55 37.7% 45 30.8% 10 6.8% 0 0.0% 146
9年 7 5.1% 32 23.4% 44 32.1% 41 29.9% 13 9.5% 0 0.0% 137
33 6.0% 87 15.7% 198 35.8% 170 30.7% 65 11.8% 2 0.4% 555

WHO発表35歳‐44歳のCPITN

WHO Global Oral Data Bank,1 January 1994より抜粋 (日本)

表5‐3 % of persons who have as highest score

歯数 0 1 2 3 4
1983 451 6 11 32 34 17
1984 80 11 8 28 41 13
1984 182 7 4 44 38 7
1986/87 1531 1 2 57 33 8
1988 89 0 1 52 40 7

 

グラフ1



コード4: ポケット6mm以上

コード3: ポケット4mmから6mm以下

コード2: 4mmを越えるポケットはないが歯肉縁下または臨床歯冠上に歯垢や歯石が認められる場合、もしくは辺縁不適合な修復物がある場合

コード1: 歯周ポケット、歯石、辺縁不適合修復物などは認められないがプロービングにより出血する場合

コード0: 健康な歯肉の状態

表5‐4 歯肉所見有病者:歯科疾患実態調査(平成5年)

年齢 歯肉炎
所見者率
保存処置困難
所見者率
歯の無い者
25‐34歳 15.84% 0.61% 0.20%
35‐44歳 25.70% 1.30% 0.34%
45‐54歳 37.76% 3.48% 2.23%
55‐64歳 39.70% 5.23% 10.61%
65‐74歳 32.55% 4.53% 32.09%
75- 歳 19.03% 4.08% 57.28%

 

(5)  欠損未補綴歯について

 全国データとして、1人平均未補綴歯数がある。しかしながら歯科疾患実態調査ではこのデータだけなので当資料との比較はできない。

表6    各年度毎及び男女別の欠損未補綴歯の状況


なし 1〜2本 3〜5本 6本以上 総数
平成元年 53 62.4% 20 23.5% 6 7.1% 6 7.1% 85
2年 71 71.0% 22 22.0% 6 6.0% 1 1.0% 100
3年 64 71.9% 17 19.1% 6 6.7% 2 2.2% 89
188 68.6% 59 21.5% 18 6.6% 9 3.3% 274
65 70.7% 16 17.4% 8 8.7% 3 3.3% 92
123 67.6% 43 23.6% 10 5.5% 6 3.3% 182

 

6年 56 39.2% 34 23.8% 46 32.2% 7 4.9% 143
7年 56 43.4% 32 24.8% 28 21.7% 13 10.1% 129
8年 64 43.8% 35 24.0% 37 25.3% 10 6.8% 146
9年 56 40.9% 25 18.2% 44 32.1% 12 8.8% 137
232 41.8% 126 22.7% 155 27.9% 42 7.6% 555
63 28.3% 57 25.6% 68 30.5% 35 15.7% 223
169 50.9% 69 20.8% 87 26.2% 7 2.1% 332

 

歯科疾患実態調査(平成5年)

1人平均要補綴歯数 40‐44歳 男=1.26  女=1.25

 総括的に言えることは、う蝕についてみると,喪失歯を除くう蝕罹患経験歯,[未処置歯(D)]+[処置歯(F)],は40歳頃に最大となっている(表4-2)。よって,40歳健診を契機とする対策がう蝕に対して有効と考えられることは,a)すでに発生したう蝕,また再発した二次う蝕に対して適切な治療を受けるように指導することと言える。加えて,高齢期において歯根面う蝕発生のリスクが高くなることから,その発生予防の意義を啓発し,前もって対策を講ずる機会として,40歳健診の意味がある。

 いっぽう,歯周疾患についてみると,歯周組織の破壊を伴う[歯周炎]の有病率は20歳代より急増し,50-60歳代でピークとなる(表5-4)。また,[保存処置困難な歯周疾患]の有病率は40歳頃より増加し,50-60歳代でピークとなる(表5-4)。よって,40歳健診を契機とする対策では,一部進行した歯周疾患を目の前にするので,効果的な予防対策としてはやや遅れているが,b)歯周疾患の重症化を抑制するための専門的ケアーと家庭療法を受けるように指導することである。

 そして,歯の喪失を防ぐことについて検討してみる。平均喪失歯数は40歳で2歯以下であり(表6),その後急増している。よって,上記の専門歯科医による,a)う蝕に対する治療,b)歯周疾患の重症化抑制処置が適切に行われれば喪失歯の予防に大いに役立つもので,40歳から開始しても有効に行える可能性が残されている。しかし,う蝕,歯周疾患とも,発生予防の観点からすると40歳ではほとんどの人が遅すぎる状態にある。しかし,口腔内歯列の一部にう蝕,歯周疾患が発病しているとしても,他の健全な,又は軽度な部分が共存しているもので,予防的な対策は総ての人が生涯必要なものであることを認識しておくことが必要である。

5 まとめ

 受診率向上の対策として,受診しなかった者に対し,なぜ受診し難いかの理由を分析する調査が必要と思われる。一方,受診をした者について,その特性を調査することは何らかのヒントが得られるかもしれない。

 また,本健診事業に予防サービス(スケーリング等,より充実した口腔衛生教育)を組み合わせることはできないか,についても検討する必要があろう。

 さらに,歯科保健の予防的なモチベーションは学童期からの一貫した教育的活動,地域社会で取り組むキャンペーン,雰囲気作り,等など,いろいろな働きかけが総合的に良い結果に繋がるものと考える。


戻る   Topに戻る